コンセプト
居留守文庫は心の旅の空港である
本に没頭しているときの幸せなありさまを「居留守」と呼んでみる。「そこに居るのに心はどこか別の世界を旅していてお留守の状態」と考えれば当てはまらなくもない。ここは「居留守」の旅の発着場である。
(居留守を使ったり、ひきこもったり、無為に時間を過ごしたり…このような否定されがちな行為も見方を変えることで、少しだけ肯定できることだってある。どうこねくり回したって結局はダメなものだとしても、頭ごなしにダメと言うのでなく、まずは受け入れてみる。そんな大きな器でありたい。
当たり前だと思われていることも角度を変えて見てみると、違って見えることがある。違って見えたその瞬間、たぶん心の容量は、わずかながら大きくなる。)
居留守文庫は本屋である
居留守文庫は本屋である。本屋にこだわり、本屋としてできることを考える。本屋であることをあきらめない。
本屋(古本屋・古書店)は本の売り買いをする場所であるが、それ以前にただ、本のある場所である。そのように本屋を捉えたい。ここは本屋のままでギャラリーになったり(ギャラリーを併設するのではなく)、何かのイベント会場になることもある。本を買わずに読む人がいればそこは図書室と言えるだろう。また発信(個人出版物の販売や広告物の配布など)の場や作品制作(写真や映像作品の撮影など)の場としても使うことができる。
誰もが気軽に利用できるくつろぎの場・遊び場であるとともに、使う人が使い方を編み出していける創造の場でもありたい。そのためには人を迎え入れられるだけの余白とイスが必要である。人を惹きつける役割は本が担ってくれる。
居留守文庫は木箱の森である
居留守文庫の棚の特徴は「小さな木箱の積み重ね」にある。コツコツと箱を積んでいく。箱が箱を呼ぶ。本が本を呼ぶ。本は出ていき、呼ぶ声に応じてまたどこかからやってくる。つながりは、箱と箱の間にも、本と本の間にも、一冊の本の中にもある。呼び合う声、越えていく声に耳を傾けて、どこまでも広がっていくような、豊かなイメージに満ちた棚を作っていきたい。
(木箱は、演劇の舞台で使われる箱馬からヒントを得て作った。基本サイズは30×45cm、奥行き20~30cm、標準的な箱馬とほぼ同じサイズである。)
居留守文庫は物語の舞台である
居留守文庫にやってくるあなたが舞台の主役である。あなたはあなたの分厚く複雑な歴史をその内に抱えている。それは隠れていて見ることができない。
店に本がある。それが古本ならば、一冊一冊に固有の歴史があると言っていい。新品同様にきれいであっても、一度は「誰かによって買われた」という履歴を持っている。また当然ながら一冊の本作りには多くの人が関わっていて、文字になっていない物語が本の後ろに隠れている。
古本がある。あなたがやってきて、本を手に取る。古本屋という舞台はあなたと本の、二つの物語が交わる点である。無数の点が日々現れるが、一つ一つは奇跡のような点である。
この点が出現する舞台を作っていることを大きな喜びとして、よりよい出会いが一つでも多く生まれるよう店作りに励みたい。